古本

リンダ=ホーグランド監督『ANPO』

褒めている人もいるし、大勢が見るのに悪い映画だとは思わないけれど、私の感想としては「退屈」。90分未満と近年では短い部類に入る映画だったのに、30分を過ぎるころにはもう飽きて、「まだ終わらないかな」と頻繁に時計を確認したほど。普通に料金払うつもりで行ったらたまたま水曜日で千円になったのだが、安くてちょうど良かったとすら思う(意地悪すぎ?)。この映画の意義は、「アート」を突破口に「安保」に迫ったこと。それは他に例がないし、スクリーンで絵や写真が見れたのも良かった(DVDをテレビで見たら迫力がなかっただろう)。しかしそれらが数珠つなぎ(あるいは連想ゲーム)的に並べられていて、もっともらしい演出(音楽とか)で間をもたせているだけに思える。「退屈」さもこの輪切り羅列型の構成に由来している。「戦争の傷跡」の内容についてもさほど新鮮な感じはしないし、絵画についてはテロップで作者とタイトルは表示されるものの、制作年が出ない! いつ描かれたのか、せめて60年安保の前なのか後なのか、示すべきではなかろうか(映画に関しては年を表示していたのに)。6月に「ダイジェスト」版を見、監督の話を聞いて予感していたのだが、この映画を見ても「安保」が何なのか、わかるようでよくわからない。インタビュー対象者を見ると、理論的・歴史的な支えは半藤−保阪で、これがまず狭すぎる。だから「米軍基地」ではなく「基地」自体の問題について、監督の立場性も曖昧になる。またジェンダーについても、インタビューの中では出てきても、監督の取り上げ方は微弱。結果として、「現在の安保体制は問題だ」というメッセージくらいは漂うが、全体として感傷的で、鋭く刺さってこない。さらに60年安保についても、新しい指摘はほぼない。「アート」関係者の当時の証言もぬるいし、全学連の主流派も反主流派もふっとばして「樺美智子が犠牲になった」というのを集約点にするのはありきたりの大雑把さ。当時の記録映画を使っているのは興味深いが(というか存在を知らなかった)、これをそのまま再上映してくれたほうがよほど面白かったのではないかとすら思う。さらに、監督は60年安保が大衆の「トラウマ」になっていると解釈しているようだが、これは相当不正確な理解だろう。安保闘争は一面では輝かしい記憶なのだから。そもそも、安保体制の歴史と60年安保闘争と現在の基地問題と、どれか一つを取り上げるだけでも問題が大きすぎるというのに、一度にまとめて映画化する時点で薄く拡散するのは必至ではないか。そういうわけで私はこの映画をちっとも面白いとは思わなかった。しかし、この映画への高評価が散見されるとすれば、この程度のメッセージすら十分浸透していないという、日本の状況の「厳しさ」を浮き彫りにした作品だったのかもしれない。