『判事の家』橘かがり(ランダムハウス講談社)

判事の家
判事の家
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橘 かがり
ランダムハウス講談社
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「自伝的小説」というのが悪質。松川事件との関わりがあってこそ初めて「自伝」としての価値を持つわけだが、どこからが創作なのか不明なため情報として役に立たない。帯で強調されている「祖父が死刑廃止論者になった」という肝心の話も、全く根拠が示されず終盤で唐突に出てくるだけ。状況証拠すら示せないところを見ると、この本を売るための捏造ではないかとすら思えてくる。松川事件を「ダシ」にしただけではないか。一方「小説」としても稚拙。この中でテーマとして成立するものがあるとすれば、権力者=加害者の家族の「悲劇」ということになるだろうが、それすら父親の女性問題にズレてしまい、松川事件を出す作品上の意義は失われてしまう。細かい点でも、冒頭の早雪との再会は経緯不明で会話も不自然、また元被告との対面も松川事件を出す必然性が失われていることと関連して意味不明。つまり「自伝」としても「小説」としても半人前な文章を抱き合わせで商品にしていて、それが悪質。