『砕かれた神』渡辺清(朝日選書)

現在は岩波現代文庫で読める。著者自身が隠さず語っているように、本書は「小説」である。つまりフィクションであって、日記そのものとして読むのは適切ではないと感じた。もちろん、全部がつくりものというわけではなく、出来事や著者の感情などある程度実際と合致しているとは推測される。だが、1945-6年当時に二十歳前後の若者がここまで考え抜いていたとするのは、ちょっと出来すぎではなかろうか。むしろ天皇制を批判するための一つの「プロパガンダ小説」として読むべきではないか。これは決して本書を貶める認識ではなく、1970年代後半の時点での天皇制批判の論理の結晶とでも言うべきものなのではないかと思う。