『〈不在者〉たちのイスラエル』田浪亜央江(インパクト出版会)

専門外の本だがかなり面白かった。イスラエルパレスチナもほとんど知らないに等しい状態だったので勉強になったし、読み物としていろいろ工夫されていて読ませるところも良い。しかし、そうした一般的評価以外で、私には特に記述のスタイルが興味深かった。著者の行動力や好奇心に感心するのはもちろんとしても、そういう能動的な面とは逆に、受動的に状況に巻き込まれてしまって、しかしその中から観察・考察が展開していくことも多い。この著者ならではと感じさせる。内容的には、タイトルおよび冒頭の文章の通り。本書は被抑圧者を正面に出して声高にイスラエル社会を糾弾しているわけではない。もちろん著者はそうした基本的前提を外してなどいないが、むしろイスラエルのマジョリティの呑気な日常に沿いながらそこに「不在者」の影を差し挟むことで、不正義・抑圧の構造を浮き彫りにする。若干批判意識が先走った部分は感じられるにせよ、この基本戦略は成功していると思う。ざっと見回しても、こうした報告はあまり多くないように思うし、もっと話題になって良い本ではないか。