『ハンガリー事件と日本』小島亮(中公新書)

前評判は聞いていたが、だいぶ前に入手したままになっていた。確かに面白い。何より著者31歳のときの本であることに驚く。時代的教養もあるにせよ、マルクス主義と戦後史の整理など簡潔だがぬかりない。ただ、ハンガリー事件の「きっかけ」としての重大さは描かれているが、そのインパクトの強さについては十分説得的とは言えないように思う。たとえば主要論壇のハンガリー事件評価についても、あくまで大衆社会論が「主」でハンガリー事件は「従」ではないのかという気がする。また最終章の「ニュー・レフト」の位置づけにしても、これは一つの党派的な見解ではないか(だから現代思潮社から再刊されるわけで)。マルクス主義の具体的分析が間違いだらけであったことは今さら当然の歴史的事実であって、逆にその中から有益なものを探し出す方が貴重な作業だという気すらしているわけだが、そうなると「反共」の思想の側に可能性があったのかどうかについても真剣な検討をすべきではないか。自民党社会党の章を読んでいてそんなことを思った。「左翼」というダメな勢力が解体された後にはマシな世の中が来るはずなのに、一向にそんな希望は見えない。「反共」だけでなく「保守」とか言っている人たちも含めて、かれらの責任も明らかにされるべきだろう。