『明治維新』坂野潤治+大野健一(講談社現代新書)

明治維新 1858-1881 (講談社現代新書)
坂野 潤治 大野 健一
講談社
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明治維新前後の話はかつて日本史で習った程度だったので、すっきりした図式を立てている本書のおかげで「そういえばこんな話もあったなぁ」と改めて勉強になった。しかし「専門書」じゃないこともあって、これまでの研究史がどうで、それに対してどういう成果が蓄積されてきていて、その中で本書の独自の主張は何なのかという点が不明確。講座派的な古くさい明治維新論が不十分だというのはよくわかるが、それは既に新しくないわけだから。特に後半の梅棹忠夫が出てくる辺りなど、新京都学派の近代化論との違い(もしあるなら)を丁寧に論じる必要があるのではないか。一方、「柔構造」論は社会運動研究にも使えそうな概念で面白くはあるが、致命的な分裂がなかったとかいう話は結果論ではないかという感想を抱く。侵略戦争に必然的に至る諸悪の根源として明治維新を描くのが一面的だとしても、そうしたその後の歴史と切り離して「柔構造」だと賛美するのもまた一面的であろう。本書の著者らがトータルにどう歴史を捉えているかは他の著作を読んでないのでよくわからないが、「我々の祖先」などという用語が出てくる歴史観に対しては、批判的に接することがまずは必要だろう。