『柄谷行人 政治を語る』柄谷行人(図書新聞)

90年代頭に高校生だった私は、10年遅れで「現代思想」を摂取していた。そこで愛読していたのが蓮實重彦柄谷行人で(それと高橋源一郎)、蓮實については『噂の真相』で読んで幻滅し(笑)大学に入るまでには批判対象となっていた一方、柄谷はしばらくファン意識が続いた。しかし柄谷自身の無責任な断言と、その読者たちの政治的無内容かつ知的権威主義に呆れ始め、次第に興味が薄れていった。「解釈で世界を変える」かのごとき本人+エピゴーネンの振る舞いを「柄谷行人シンドローム」と勝手に命名し、だから『批評空間』も立ち読みすらロクにしなかった。そういう経緯(?)もあり、一応時代の証言として買っておいた本書をふとした弾みで読み始めたけれど、久々の柄谷本は予想外に面白かった。本人はすぐに「普遍的」とか言い出すのでうんざりさせられるが、実際にはローカルな素材が力を持つのであって、本書も柄谷のローカルな経験や視座が興味深い。こういう世界大の「理論」は基本的にはすべて胡散臭いわけだが、上に書いた知的権威主義という点では実は柄谷の主張は常にシンプルで、その意味では好感が持てる。また「理論」と関係ない(?)ところでデモを肯定したりと、単なる左翼おじさんであるところも良い(笑)。現状把握とかあまりに大雑把(適当)ではあるけれど、過去の自分の判断を「あれは間違っていた」と言える率直さも悪くない(無責任だけどね)。『トランスクリティーク』とか『世界共和国へ』とか興味を惹かれなかったけれど、読んでみようかと思った。