『性と暴力のアメリカ』鈴木透(中公新書)

研究会のテキストに指定したこともあり読んだ。性と暴力のアメリカ史という意味ではまとまっていて、全く知らなかったことはそれほどなかったけどそれなりに勉強になる(奴隷制度が存在した時代に黒人はリンチの主要な対象ではなかった、というのはなるほどと思った)。ただ性にしても暴力にしても、建国以来の「文化的」態度の問題に還元されていて、アメリカ内部の複数の潮流や、軍事国家の制度的展開とその影響といった構造的把握が弱く、その点が物足りない印象。「性と暴力」のつながりにしても、人種をめぐってはその通りであろうが、それ以外の議論においてはやや強引(というか抽象的)であろう。