『オーラル・ヒストリー』御厨貴(中公新書)

前半風呂読書。イデオロギー的な問題はさておいて、「史料」の空白を埋めようと地道に努力している様は伝わってくる。しかし、長年「オーラル・ヒストリー」に携わり、今回のような「入門書」まで書くほどの人間にしては、妙に素朴というか、ちょっとでもインタビュー作業に関わればすぐに気づきそうなことしか書いてないように思える。そもそも、「オーラル・ヒストリー」の意義を強調する割には、具体的に提示される(他の方法ではなしえなかった)「成果」があまり魅力的に見えない。これは著者の「オーラル・ヒストリー」が、政策決定を担った「公人」対象であり、かつ直接「実証」するのではなく解釈の参考程度にとどめようとしていることに由来しているのかもしれない。たとえば著者はなぜか(あえて?)運動史などの「聞き書き」を無視しているが、政策決定と異なり社会運動は表面的なことすら十分可視化できていないことがほとんどである。そういう領域でのインタビューの役割と、著者らの前提とではだいぶ違う。そういう意味では、こんな世界もあるのかとは思ったが、「これこそがオーラル・ヒストリーだ」というのではたまらんなとも感じた。ちなみに、聞きっぱなしが基本で矛盾等を指摘しないことを強調していて、一般論としてはわかるが、怒らせたりせずしかしそういう点に踏み込めてこそインタビューの醍醐味、と私自身は思っている。